この筆不精というやつは、長い年月にわたって計り知れないほどの損失を人にあたえるものです。と書かれています。
努力しても直らない欠点は、たぶんその人の最良の部分に根ざしているのではないかとぼくは思います。そのことで現在は損をしていると思われるかもしれません。しかし古い諺をもじって言えば、「損得はあざなえる縄のごとし」という見方も成り立ちます。世間的な損が、ひょっとしたら大きな得に背中合わせにつながっているのかもしれません。うーん、さすが、という感じですね。
「がんばれ!」という表現は、じつはものすごく大きな問題をはらんだ行為なのではないでしょうか。と五木さんは書いています。
努力したから、その分だけむくわれて当然だという理屈は、ないんじゃないかとぼくは思います。人生とは、思うにまかせぬものなのです。その気になって頑張っても、できないことはできない。「運を天にまかせる」の「まかせる」のようなことでしょうか。
なにかが働いているのです。自分の力をこえた、目に見えないなにかが。
それを神秘的な力のようには、ぼくは思いません。そうではなくて、一人の人間の能力をこえた、なにか大きな流れのようなもの。
生命のリズムのようなもの。
それにまかせるという感覚を、ぼくは少しずつ開発してゆきたいと思っています。
人生における夢というものは、必ずしも期待したとおりにはいかないものです。むしろ夢の何分の一かでも実現できたならラッキーだ、と思っていいのかもしれません。そのことを考えると幸せの予感を感じられるのが「自分の夢」だと思います。だから、夢を持って生きること自体が幸せなのだと思います。「夢があるから」と幸せを感じることができます。
夢は必ずしも実現しなくてもいいのです。むしろ夢は夢にとどまるからこそ、意味があるのかもしれません。
夢見ることは、人間にとって大事なことです。心にも大事だし、体にとっても大事なのではないでしょうか。
私たちは、人間にとって自由になることとならないことがある、ということを受け入れなければなりません。人生なかなか思うようにはなりません。
私たちは人間が不自由な存在であることを認めざるを得ないのです。
私たちは人生をあるがままに受け入れなければならない。
私たちはまず認めることから出発しなければならない。
私たちは出会い、別れ、そして出会い、また別れ、ふたたび出会いながら、小さな生命の火を絶えることなく受け継いでゆく。そんなイメージを思い描くことが、ぼくはとても好きです。幸福感も出会いと別れの繰り返しです。いろんな幸せとたくさん出会えたら、と思います。
いずれにせよ、〈愛する〉ことは自分の勝手、と、心に言いきかせておく謙虚さが大事な気がするのですが、どうでしょうか。〈親孝行〉もまた、要求するものではなさそうです。私は、幸せになる方法としての〈愛する〉は、「人を幸せにする」ことだと考えています。そのポイントは、人を幸せにする幸せを感じられるかどうか、だと思っています。そして大きいのは、幸せにしたい人がいるかどうか、ではないかと思います。
〈愛する〉ということが、血縁のなかにとどまっているだけでは、それほどすばらしいことだとは思えない、そのことを言いたくて遠回りしてしまいました。私は、どうしたら多くの人の幸せに役立てるか?、などと本気で考えます。多くの人を幸せにすることができたらそれだけ自分が幸せになれる、と考えるからです。
人間は誰でも自分がいちばん大切なのです。そして、そのことをほんとうに自覚した人間だけが、自然なかたちで他人を大切に思うことができる。正直に「自分がいちばん大切」って思っていいんですね。そしたら、もっと自分を幸せにすることを考えられるような気がします。
口で言えば簡単ですが、なんとなくそう思うのです。
最初の『生きるヒント』でも、この『2』でも、ぼくが語っていることは一つのことです。同じ歌を口ずさんでいるにすぎません。
ある読者のかたから、こんなお手紙をいただきました。その通り、だと思いました。
〈(前略)読みすすめるうちに、ほんとうにそうだ! そうなんだ! と強く共感する部分と、それはちょっと違うなあ、私はそうは思わないけど、どうなんだろう? と、首をひねる部分と両方あって、その肯定と疑問のふたつの感情のあいだを揺れながら読み終えたのです。(後略)〉
この文章を読んで、とても嬉しくなりました。本というものは、まさにこんなふうにして読むのが最高だと思ったからです。
これを読んでくださる皆さんが、うなずいたり、首を横にふったりする姿を想像すると、なんとなく嬉しくなってきます。この本に書かれてあることを信じるのではなく、それに触発されて変化する自分自身の心模様を信じること。私も、このホームページも、まったく同感です。
一冊の本が見知らぬ誰かの心に、小石を池に投げたような波紋をつくることを信じて、これからも書き続けていこうと思います。
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