『竜馬がゆく』(10)竜馬の空城計

                     司馬遼太郎著・文春文庫

 まず「空城計」について説明するために、有名な例を紹介します。
「三国志」の中で、諸葛孔明が2千の兵で城を守っているところへ、司馬仲達が15万の兵を率いて攻め寄せた。その時、孔明は城内の兵を隠し、門を開いた。つまり、城を空にして見せた。すると、仲達は「これはおかしい、孔明のことだから何か策略があるに違いない」と兵をひいてしまった。

 自分が不利な時に、相手の意表をついた策戦だ。私はこれをヒントに、弱い自分をされけ出し人を動かすこと、人の予想以上にまっ正直を貫く方法を想像する。「Honesty is the best policy.」だ。
 例えば、知識や経験が少ないセールマンがキャリアのある相手に対してセールスをする時、正直に「私は未熟だからよろしくお願いします。いろいろと教えてください」と、相手の話を聞くことに努める。相手は先輩と敬われて気分が悪いわけがない。自分の話を聞いてもらうことは内心うれしいものだ。「しょうがない。少し面倒みてやるか」となる。これがいつもうまくいくほど世の中は甘くはないが、自分より知識やキャリアのある相手を説き伏せようとするよりは可能性がありそうだ。
 これはやる人の人柄が大きく左右する。いわゆる憎めないヤツがやると効果的だ。また、やる相手も体育会系、親分肌なら効果が期待できる。セールスの成績のいい人には聞き上手な人が多いという。一見無口でバイタリティがなさそうに見える人が優秀なセールスマンだったりする場合がある。

 話はやっと竜馬に移る。竜馬が江戸での剣術修行を終え土佐に帰っている時、竜馬の仲間の豪士の1人が、鬼山田と呼ばれる上士に無礼討ちされた。殺された豪士の兄・池田寅之進が、それを聞いて怒って駆けつけ、鬼山田を仇として討った。これにより、上士対豪士の騒動となり、それぞれがある屋敷に終結した。竜馬も。しかし、竜馬はふらりと上士の終結する屋敷に単身乗り込んだ。「藩士たがいに血みどろになって相戦う。得るところは、山内家24万石のお取りつぶしだけです」と竜馬は上士連中に言う。この時は相手方も納得しなかったが、竜馬の剣の腕を恐れたのか、あっけにとられたのか、わからないが、竜馬が堂々と引き上げるのを黙って見送った。この事件は池田寅之進が腹を切ったことで、断ち切れになった。
 これと同じような単身乗り込みの話は、羽柴秀吉にも、勝海舟にもある。相手の意表をついている。しかも、相手の下手に出て成功している。まぁ、やる人の器量が大きいとは思う。しかし考え方によっては、まっ正直に頭を下げていると考えられる。

 私は自分を必要以上に飾らず、正直に誠意をもって相手に接することが大事だと思う。また謝る時には、言い訳をせず、相手の悪いところは指摘せずに、ひたすら誠実に謝るのがいいと思っている。「空城計」をこういうことを考えるヒントとしている。
 私は竜馬の生き方の中に「至誠」ということを感じている。